建築物の耐用年数の設定(鉄筋コンクリートのかぶり厚さの必要性)

公開日:2010/10/15 23:53

 鉄筋コンクリート構造物は、鉄筋を保護する為に、「かぶり厚さ」が規定されています。
 このかぶり厚さは
  ・何の目的で設定されるのか
  ・かぶり厚さの根拠は何か
  ・かぶり厚さの重要性
 などを再度認識する為に、文献などを調べましたので、その結果をご報告いたします。
 
まず、参考文献の抜粋を記載しますので、ご参照ください
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参考文献「建築構造計画指針 第11章」2000.6
           (社)日本建築構造技術者協会
目的
 建築構造物の耐久設計は、構造計画・設計における目標性能を維持し、
想定した荷重・外力に対して必要な構造性能を発揮させることにより、
建築物の安全性、使用性を確保し、良好な社会資産を保全することを目的とする。
 
適用範囲
 新築時の建築構造物の耐久設計について規定する。
目標性能の設定
 耐久性に関する目標性能は、主として建築物の目標耐用年数
(構造計画における設計共用期間に対応)で示される。
 建築構造物の耐久性に対する目標性能は、「設計共用期間を通じて、使用性、
修復性、安全性という基本構造性を維持するために、重大な劣化が生じていない」こと。
 
目標性能を確保する為の具体的な方法
 「想定した設計共用期間を考慮して計画、設計した建築構造物の経年劣化に基づく耐用年数を推定し、
設計共用期間との整合性を検討する」
 
耐久計画
 建築物の構造および構造部材の耐久設計は、建築物の計画、設計、施工、共用、保全、除却に至る
全ライフサイクルを考慮した総合的な耐久計画に基づき実施する。
 
建築構造物に対して、目標耐用年数を設定する
 構造設計の立場からすると、建築構造物の目標耐用年数は、鉄筋コンクリート造、金属構造、
木質構造などの構造形式によるところが大きい。
 
 設計共用期間中に重大な劣化を生じさせないこと
 設計共用期間中の点検、修繕、更新などの維持管理が技術的に可能であること。
 
 構造設計においては、採用した各種構造形式の特徴により、耐久性に対して配慮すべき事項が異なる場合がある。
計画、設計した建築構造物の耐用年数を推定する
 建築構造物に対して十分な耐久設計が実施されれば、その目標耐用年数と推定耐用年数が一致するはずである。
 しかし、現実では建築構造物の耐久性は、多種多様な劣化要因の影響を受けるため相違が生じる。
 完全な形で建築物の耐用年数を推定することは、まだ不可能であると思われる。
 耐用年数推定の検討方法の原則を示すこととする。
 
建築物の耐用年数は「建築物またはその部分が使用に耐えなくなる状態(限界状態)に至るまでの年数」であり、
耐用限界としては、
 ①材料の経年劣化に伴う構造耐力の低下などの「物理的耐用限界」
 ②経済性、機能の低下などの「社会的耐用限界」
 ③陳腐化、視覚的条件などによる「意匠的耐用限界」
が考えられる。
 現在、耐用年数として一般によく知られているのは、社会的耐用限界に基づき物理的耐用限界を考慮して
設定したとされている「大蔵省令:原価償却資産の耐用年数(大蔵省令第16号 昭和54年)がある。
 平成10年
 「住宅、寄宿舎、宿泊所、学校または体育館」
 SRC造、RC造・・・47年
 積石造・・・38年
 S造(骨格材の肉厚3mm~4mm)・・・27年
 木造・・・22年
 
一方、実際の建築物の除却年数については、上記3つの耐用限界が混在したものであることが予想される。
 「社会的耐用限界」「意匠的耐用限界」についてはその予測が困難な場合が多い為、本章においては
「物理的耐用限界」を対象にし、経済性、環境保全性等を加味して、合理的な目標耐用年数を設定するものとした。
 
劣化要因
 鉄筋コンクリート造では、中性化、塩害による鉄筋の発錆
 鋼構造では塗装劣化による鋼材の腐食
 などが劣化現象として挙げられ、その経年劣化の予測に基づき目標耐用年数が推定される。
 各構造形式による材料特性などの固有耐久性能および劣化外力に基づく劣化要因および建築物の用途、
  機能を勘案して設定する。
 また、共用期間中における維持保全が耐用年数に与える影響もかなり大きい為、設計時に作成した維持保全計画も考慮する。
 
経済性要因 
 新築時の建設費だけでなく、共用時の維持保全費、除去時の解体・処分などを含めたライフサイクルコストにより検討する。
 
環境保全性要因
 地球環境問題として建築分野においても注目されている。資源の枯渇化、地球温暖化、廃棄物問題などに対して、
省資源、省エネルギー、CO2排出量の削減、長寿命化、リサイクルなどが対策として挙げられる。
 できる限り耐用年数を長くすることが重要事項となる。
 
建築物全体に望ましい目標耐用年数の級
 住宅・事務所・病院
 RC造・SRC造・・・Y.60(Y.100)
 S造・・・Y.60(Y.100)
 積石造・・・Y.60
 木造・・・Y.40
 
 ( )内は高品質の場合
  Y.100=代表値100年 範囲80年~120年 下限値80年
  Y.60=代表値60年 範囲50年~80年 下限値50年
  Y.40=代表値40年 範囲30年~50年 下限値30年
  
耐久設計
1.コンクリート系構造(RC造、SRC造、PC造)
 劣化現象
  中性化、鉄筋腐食、ひび割れ、漏水、たわみ、表面劣化等
  
  気温、湿度、日射熱等の気象条件などによる中性化
  海岸地域での塩害
  温暖地域での酸性土壌や酸性の地下水
  寒冷地での凍害
  工業地帯での酸性雨等
 などによる劣化外力がある。
 
 (1)中性化
  コンクリート中の鉄筋は、セメントが硬化するときの水和反応によって生成される
水酸化カルシウムという高いアルカリ性の物質によって保護されている。
 しかし、この物質は永久にアルカリ性を保持することは無く、大気中の炭酸ガスによって
徐徐に炭酸カルシウムという中性の物質に変化する。
この現象がコンクリートの中性化である。
 
 コンクリートの中性化により、鉄筋の保護機能が失われ、鉄筋が腐食(錆びる)し、
その膨張によってかぶりコンクリートにひび割れが生じる。
 このひび割れから水、酸素、炭酸ガス等が侵入し、腐食が促進され、コンクリートの浮き、剥落等の劣化が生じる。
 
 (2)塩化物イオン浸透・・・コンクリートの塩害
  コンクリート中の骨材に含まれている場合(塩化物量で制限)と、外部環境により侵入してくる場合がある。
 どちらも、鉄筋を腐食させる。
 (3)鉄筋腐食
 (4)表面劣化
 (5)凍結融解
 (6)ひび割れ
    許容ひび割れ(ヘアークラック)=0.1~0.2mm
 (7)アルカリ骨材反応
    ある種の反応性の砂、砂利とセメント中のアルカリ成分と水が反応し、その反応生成物が膨張作用を起し、
   コンクリートの内部繊維を破壊する現象
 (8)クリープ
    常時荷重が作用することによる変形
    
 材料特性
  混和材料=AE剤、AE減水剤
    中性化、凍結融解に対する抵抗性を増大させる効果がある。
  水セメント比が小さくなるので、硬化コンクリートの耐久性を向上させる効果がある。
  仕上材
   コンクリートの表面になんらかの仕上材を施せば、コンクリートの中性化は抑制される。
 仕上なしと比較して、中性化速度は
 塗装仕上・・・0.71
 モルタル仕上げ・・・0.58
 タイル仕上げ・・・0.38
 との資料もある。
 
 
建物の耐用年数の推定
 躯体コンクリートの屋外側および屋内水周り部分の大半が鉄筋表面の位置まで中性化するか、
鉄筋位置での塩分量(材料中に含まれる塩分量も含む)が腐食危険量に達した時点を耐用年数とする。
 
 コンクリート系躯体の推定耐用年数(Y)は、鉄筋の防錆処理を行わない場合次の式によって求められる
 Y=min(Yn,Ys)
   Yn:中性化速度に基づく耐用年数
   Ys:塩害により決まる耐用年数で、飛塩飛来の影響があり有効な防錆対策がなされていない場合に適用する。
 中性化速度に基づく耐用年数(Yn)
  中性化速度は、依田式を元に水セメント比での表現を設計基準強度に改めて算出する。
 Yn=Y0*A*F*G*H+Yf
 
   Y0=φ*K1*C*C/(K2/Fc+K3)二乗
   
     φ:実験結果を実構造に適用する際の低減係数
     Fc:設計基準強度(N/mm2)
     C:中性化限界深さ
       屋外側は中性化が鉄筋位置に達した時点
       屋内側は中性化が鉄筋位置より更に10~20mm進んだ時点
     K1,K2,K3:材料や環境により決まる定数
     A:コンクリートの種類による係数(普通コンクリート=1.0)
     F:コンクリートの施工に関する係数(通常=1.0)
     G:維持管理に関する係数(維持管理されている場合=1.0)
     H:環境要因に関する係数(一般環境=1.0)
     Yf:維持管理された仕上材の耐用年数
     
中性化深さ計算式による数値をグラフ化したものを読み取ると、以下のようになっている。
 条件
 共用期間
  標準=65年と設定しているもの
 設計基準強度=24N/mm2
 F=1.0(施工精度=普通)
 φ=0.5
 仕上材無し
 
 中性化深さグラフ数値
 「屋内」
 一般
 30年・・・29mm
 60年・・・32mm
 100年・・・41mm
 
 ひび割れ巾の制御 
  目標ひび割れ制御
  コンクリートの乾燥収縮によるひび割れは、美観や漏水という機能上の傷害をもたらすとともに、
前項で挙げた中性化や塩害を促進する。このような機能上や耐久性に影響を与えないひび割れ巾の目標値を定める
 (許容最大ひび割れ巾)
 乾燥空気中あるいは保護層のある場合・・・0.4mm
 湿空中・土中・・・0.3mm
 凍結防止剤に接する場合・・・0.175mm
 海水・潮風による乾湿の繰り返しを受ける場合・・・0.15mm
 水密構造部材・・・0.10mm
  
 ・・・以下省略
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 建築物の耐久年数は、劣化をいかに抑制していくかにかかっていることがわかります。
 そして、この劣化を考慮してかぶり厚さの数値が決まっていることがわかります。
 木造住宅においても、基礎部分は鉄筋コンクリート造で造られています。
 その為、基礎の耐久年数を確保する為には、かぶり厚さの確保が重要になってくることがわかります。
 
 決められているかぶり厚さについて
  建設大臣官房官庁営繕部監修 建築工事共通仕様書より
   土に接する部分 柱・梁・スラブ・壁・・・40mm
           基礎・擁壁・耐圧スラブ・・・60mm
   土に接しない部分 スラブ・耐力壁以外の壁・・・仕上げあり20mm 
                          仕上げなし30mm
            柱・梁・耐力壁 
                     屋内・・・仕上げあり30mm
                          仕上げなし30mm
                     屋外・・・仕上げあり30mm
                          仕上げなし40mm
            擁壁・耐圧スラブ・・・40mm