木造(在来工法)の構造設計の理解を深める

 住宅の建築家で生きていくなら、木造の知識習得は必須です。
 木造住宅の構造設計は、おおかた壁量計算で簡単に(構造計算をするのに比べたら)おこなえます。
 壁量計算を身につけておけば、だいたい事足ります。
 
 でも、壁量計算は木造設計のほんの一部分の技術にすぎません。
 もっともっと奥深いのに、それを知らずにいるなんてもったいないことです。
 
 ということで、今日も勉強しました。
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・木造の構造設計方法
・建物の壊れ方と、壁量計算の視点
・許容応力度計算を壁量計算に簡略化する流れ
・耐力壁の強さの決定
・層間変形角1/120について.
(マニアックなので、興味がある方だけどうぞ。).
■木造の構造設計方法
 木造の構造設計方法は、壁量計算によるものと、構造計算をおこなうものの2つの方法があります。.
1.構造計算.
 構造計算の流れは、一次設計の二次設計に分かれます。
 
 一次設計は、設計荷重(常時荷重や地震力など)や部材(柱・梁・基礎)断面の算定を行います。
 このときの地震力は、建物の耐用年度(50年)の間に2~3回程度発生すると考えられている地震(中地震=震度5(80~250ガル))を想定していて、その際に建物は弾性限度内にあって、地震を繰り返し受けても構造に変形が残らないことを前提にしています。.
 二次設計は、建物の耐用年度の間に1回遭遇するかもしれない地震(大地震=震度6(250~400ガル))を想定していて、建物に変形や損傷が生じても、倒壊には至らないことを前提にしています。
 その計算方法として、
  1.許容応力度計算+仕様規定
   ・ルート1:許容応力度のみ
   ・ルート2:許容応力度+剛性率・偏芯率
   ・ルート3:許容応力度+保有水平耐力
  2.限界耐力計算
  3.国土交通大臣が定める計算
  4.時刻歴計算(地震応答解析)
 があります。
 
 許容応力度計算は、仕様規定(建築基準法施行令3章3節)も守らないといけませんが、限界耐力計算では仕様規定は付いてきません。
 伝統構法に限界耐力計算を使うのは、仕様規定を守る必要が無いからです。
 ちなみに、仕様規定の中に、施行令第47条「継手・仕口」があり、金物の使用が必要になります。.
 許容応力度計算のルート1~3の選択は、建物の構造種別、規模や高さなどで選択し、番号が小さい設計ルートは、耐震設計計算が簡略化されるものの、壁量などの構造規定が厳しくなります。番号が大きい設計ルートは、高度な耐震設計計算が求められます。.
2.壁量計算
 2階建て以下、延べ面積500㎡以下、かつ高さ13m以下、軒高9m以下の木造建築物は、構造計算をしなくても壁量計算をしたのでいいことになっています。これが建築基準法第6条4号の建物に該当するので、”4号建物”と呼ばれています。
 しかも、建築士が設計した場合には、壁量計算書などのの図書が建築確認申請の際に省略できるので、それを”4号特例”と呼んでいます。.
 壁量計算は、上記の木造に限って構造計算を簡略化しているもので、法律に特別枠(令46条4項)として計算方法が定められています。.
 ちなみに、平屋建てで延べ面積が50㎡以下の木造は、壁量計算自体もしなくていいことになっています。.
 壁量計算は、規模が小さな建物に、構造計算ほどの手間をかけなくてもいいようにしているもので、壁量計算の根拠も構造計算と同じものです。.
 許容応力度計算の簡単版みたいな感じです。
 
■ひとりごと(^-^)/
 人々の生活や安全を守る器である住宅、その大部分が木造住宅であり、4号建物です。身の回りでたくさん建てられている建物が、構造設計を簡略化されています。
 たくさん建てられる建物だからこそ、きっちりと構造設計をして、安全性を高めないといけない気がしますが、そうはなっていないのが現実です。
 そして、そのことを知っているのは住宅建築に携わっている人だけで、お客さんは知らないのではないでしょうか。
 簡略化されているのをいいことに、楽に設計ができると思ってはいけません。むしろ、簡略化されている分細かな配慮が必要です。
 その為には、壁量計算の事・木造の事をしっかり理解して、更には壁量計算の元になっている構造計算(許容応力度計算)についても、知っておく必要があると思います。.
■建物の壊れ方と、壁量計算の視点.
 許容応力度計算とか限界耐力計算とかは、構造計算の二次設計ですので、大地震で建物がボロボロになってしまっても、倒壊だけはしないことを目的に設計することです。
 そういう建物の極限の状態において、どういう耐え方を建物に求めるか、接合部分を固めて持たせるか、建物全体が揺れながら持たせるか、それによって選ぶ計算方法が変わることになります。
 前者が許容応力度計算(保有水平耐力)であり、後者が限界耐力計算です。
 壁量計算は、許容応力度計算の側に属しているので、接合部を固めることになります。 
 そして、耐力壁が壊れるよりも先に、柱頭・柱脚が壊れないようにすることです。
 限界耐力計算を簡略化した計算方法は、現在整備が進められているところです。
 
■許容応力度計算を壁量計算に簡略化する流れ.
 構造計算の許容応力度計算では、
 ”建物に地震力が加わった時に、その建物の許容応力度を超えないこと”を確認します。
 許容応力度とは、”柱や梁などの材料にどの程度まで力を加えてよいかを表すもの”ですが、木造のように材料の数が多いと、計算に手間がかかります。
 そこで、簡単に計算できるようにしたのが壁量計算です。
 
 許容応力度計算から壁量計算に簡略化された流れは、以下のようだと考えられます。.
 ①地震力は建物重量から求められるので、建物重量や条件をあらかじめ設定します。(モデル建物を想定する)
 ②求められた地震力を、床面積1㎡あたりの数字に表現します。これが必要壁量の基準になります。(床面積に対して基準数値をかければ、必要壁量が求められます。)
 ③許容応力度を計算するとき、簡単にする為に地震力は耐力壁で抵抗するということにします。(柱や梁などの部材ごとの細かな部分の抵抗力は無視して、耐力壁だけで抵抗する)
 ④耐力壁1つあたりの強さを、仕様ごと(筋かいとか合板とか)に決めます。(壁倍率)
 ⑤耐力壁の数を拾い出して、必要な壁量を上回っていれば、地震に対して大丈夫ということが確かめられるようになります。
 
 モデル建物と、必要壁量の基準の説明については、別記事「壁量の根拠」を参照ください。
 
■耐力壁の強さの決定
 壁量計算が許容応力度計算を簡単にしたものなら、壁量計算の一次設計と二次設計はどう考えられているのか。
 壁量計算の場合、地震力に抵抗するのは耐力壁だけで考えているので、耐力壁に対しての一次設計と二次設計と言えます。
 耐力壁の強さが、そのまま建物の強さに反映されます。
 
 耐力壁の強さは、壁倍率で表していますが、その壁倍率は一次設計で決まっています。二次設計のものではありません。
 一次設計は、中地震を受けても地震が終われば、建物の変形は残らず元に戻って、構造上問題ないということです。
 耐力壁の強さは、以下の4項目のうちの一番小さい数値=安全側になる数値で決定しています。
 ①降伏耐力(弾性限界点の耐力=加力がなくなれば、変形が残らない状態の限度)
 ②靭性(じんせい=粘り強さ)を考慮した数値
 ③最大耐力に対して一定の余裕を見た数値
 ④特定の変形時(層間変形角1/120)の耐力
 どれにしても、耐力壁の限界(壊れる寸前)の強さではなくて、余裕を持って決められています。
 
 耐力壁の強さは、二次設計を行わず、一次設計だけ行って余裕があるから二次設計で必要な強さも満たしているということにしています。
 という意味では、構造計算の許容応力度計算ルート1になっていると言えます。
 二次設計が免除される条件として、柱頭・柱脚の接合部がしっかり固定されていることがあります。
 これは、壁の耐力を決める根拠になっている”破壊試験”の際に、壁が転倒・回転しないように固定した状態で、壁だけが壊れる様子を測定しているからです。柱頭・柱脚の固定仕様をセットで測定しているのではなく、別々に扱っているからです。
 その為、耐力壁の強さ=壁倍率通りきちんと機能させる為には、柱頭・柱脚を固定する金物をきちんと選択しないといけないということです。.
 もう少し詳しく、耐力壁の強さがどうやって決められているのか、どれくらい余裕があるのかについては、別紙「壁耐力の算出方法」を参照ください。
 
 柱頭・柱脚を固定する金物の強度については、金物メーカーが実験して認定を受けて、どんどん新しい金物が販売されています。.
 予断ですが、在来工法の場合は地震力は耐力壁だけで抵抗するように考えています。
 地震力=水平荷重は耐力壁で。鉛直荷重=建物重量は柱や梁が負担するとうふうに、力の負担を別々に担当するように考えています。
 2x4工法の場合、柱はありませんので、耐力壁が鉛直荷重も水平荷重も両方を負担することになります。
 
■層間変形角1/120について
 
 壁量計算も、許容応力度計算の流れに属している以上、同じ基本条件によっています。
 その中で、建物の変形量を示す層間変形角については、建築基準法施行令82条の2で、1/200と定められていますが、木造は地震力による構造耐力上主要な部分の変形によって建築物の部分に著しい損傷が生じるおそれがない場合に該当するので、1/120が適用されます。
 層間変形角1/120とは、3mの高さの壁が25mm傾くことを意味します。
 
 耐力壁の強さは、その壁に力がかかったとき、1/120傾く状態に耐えられる力の強さです。(詳しくは、別紙「壁耐力の算出方法」を参照ください。)
 
 層間変形角の設定については、地震時の壁のひび割れや、扉の開閉に支障が出ないことを考えている。
 在来木造の層間変形角は、1/120になる前は1/60でした。しかし、1/60は壁面の仕上げには相当の損傷が生じて、修理費に大きな費用がかかる少し手前の状態」です。
 建物の耐用年度内に2~3回想定している地震で、そんなに補修費がかかったのでは大変なので、補修費がかからないように考慮しているそうです。
 それと、層間変形角が大きくなるということは、それだけ柔らかい建物だということなので、建物の側を走る車の振動や、日常生活での振動に対しても、ストレスの原因になる恐れがあります。

壁量の根拠
7000065284700uf.pdf
PDFファイル 16.8 KB
壁耐力の算出方法
7000065284701uf.pdf
PDFファイル 120.9 KB