住宅の耐震計画における縦揺れの扱いについて

 木造住宅の地震に対する構造計画=耐震性能の検討を行う場合、地震力は水平力が建物に作用するものとして検討を行います。
 しかし、実際に起こる地震は、水平力である横揺れだけではなく、下から突き上げるような縦揺れもあります。
 では、縦揺れに対する耐震性能については、どう考えられているのか。
 結論から言うと、縦揺れよりも横揺れの方が加速度が大きいため、横揺れに対して耐震性能があれば縦揺れに対しても安全だとして扱われています。

 その説明について、書籍に記述がありますので紹介します。


 構造物の耐震設計においては、特殊な例を除いて、構造物の2つの水平軸(弱軸・強軸)方向に地震力を独立して作用させて検討を行っている。したがって、地震動は、水平1方向のみを用いればよいことになる。しかし、地表面のある1点の運動は6つの自由度をもつ。このうち、構造物の耐震上、回転の3成分は無視できることが多い。したがって、実際上は、地表面のある点の地震動を水平2成分と上下1成分の合計3成分で表すことができる。強震観測では、一般にこれら3成分の加速度を測定している。
 構造物の耐震設計において、強震計の記録方向とは異なる方向の水平成分が及ぼす影響が大きいと考えられる場合には、その程度を把握しておくことが重要である。
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4.4.1 上下動と水平動の振幅比
 図I.38(a)は、上下動と水平動の最大加速度の比を示したものである。上下動の最大加速度が10Gal以上の937データおよび20Galをこえる387データが用いられている。また、2成分のうち加速度振幅の大きい水平動成分が選ばれている。いずれの場合も分布形はよく似ていることがわかる。上下動と水平動の最大加速度の比の頻度のピークは、ほぼ0.3付近にみられる。その平均値は、上下動が10Gal以上の場合で0.42、20Gal以上で0.5となっている。加速度振幅比が1をこえるデータは全体の約1%にすぎず、その約半数はマグニチュードが5.5以下の近距離の中小地震のデータである。
 一方、上下動と水平動の最大加速度の比と震央距離との関係を4種地盤について示したのが図I.38(b)である。
 図I.38(a)(b)のいずれにおいても、上下動と水平動の加速度振幅比は震央距離およびマグニチュードに対して一般的な有意な関係を示していない。しかし、この振幅比の多くは0.5以下となっている。4種地盤に限れば、振幅比は全体の約3/4のデータで1/5~1/2、平均値は1/3である。震央に近いほど、上下動と水平動の最大加速度比は、近距離の中程度の地震で1/2、遠距離の大地震で1/3を考えておけばよい。これに関しては従来の研究結果も同様の傾向を示している。
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 1)上下動の最大加速度は、水平動のそれに比べて、遠距離になるほど早く減衰する。
 2)上下動の最大速度と最大加速度の比は、水平動のそれと震央距離について同一の傾向を有する。
 3)上下動の最大加速度と最大速度のおのおのの水平動に対する比は、距離が増すとともに減衰する傾向にあり、その比はほぼ0.4~0.6となる。ただし、震源近傍においては、水平動と上下動の最大加速度はほぼ同じとなる。
(動的解析と耐震設計[第1巻]地震動・動的物性 土木学会編  技報堂出版1989年3月)


 この記述は阪神大震災以前のもののため、震災後のものも紹介します。


 水平動と比較して上下動の特徴をあげると、最大加速度についげは主要動における水平2成分の平均値に対して上下動は約1/2であることが報告されている。一方、1995年兵庫県南部地震では震源に近い位置で上下動の最大加速度が水平動を上回っている観測記録がみられたが、それらは軟弱地盤が多かった。これは軟弱地盤の塑性化が大きく、その影響が水平動に現れたものとみられている。加速度応答スペクトルの関係では、各記録の最大加速度とスペクトルの卓越周期(Ta)で基準化すると、それらの平均スペクトルは図1.1.3.4のように上下動と水平動がほぼ同じ形状となる結果が得られている。その卓越周期は、上下動が水平動の約0.6倍と短く、この関係については各記録観測位置の地盤条件が影響している。
(多次元入力地震動と構造物の応答 日本建築学会1998年)